アジア系DIYアーティストの新世代、KUOKO。繊細さと不屈さが共存するシンセポップが共感される理由【Virgin Music Japan Picks】

執筆:RUPIN(Virgin Music Japan Staff)


Virgin Music Japanがインディー音楽シーンの最前線で注目が集まる、新進気鋭なアーティストを紹介する企画「Virgin Music Japan Picks」。今回ピックアップするのは、アジア系ソングライター、プロデューサー、クリエイターとしてマルチに活躍するKUOKOだ。


KUOKO(クオコ)ことJasmine Quachは、ベトナム系ドイツ人の女性アーティスト。サイケデリックでドリーミーなベッドルームポップ、ベイパーポップを生み出す彼女は、現在はハンブルクを拠点に活躍する。ロンドンでエレクトロニック・ミュージックに出会った彼女は、独学した音楽制作やアートを、自身の創作活動のベースとしている。作詞・作曲はもちろんプロデュース、レコーディング、ミキシング、アートワーク、衣装デザインまで、すべて彼女自身で行う、セルフプロデュース型マルチクリエイターだ。

2018年にデビューEP「Lost Woods」をリリース。地元ドイツでReeperbahn Festivalやpop Festival、Kawaii Festivalなどの音楽フェスへの出演を重ね、同作でハンブルグの音楽賞「Krach & Getöse」をいきなり受賞する。2020年にEP「Reality Check」をリリース。2021年にはシングル「Perfect Girl」を皮切りに、「Making Friends Is Easy」「Cybercreeping」などを立て続けにリリース。10月にファーストアルバム「KUOKO」がKabul Fire Recordsからリリースされた。またMollono.BassやHeimer、Suff Daddyなどドイツのエレクトロニックアーティストとコラボレーションを頻繁に行なっている。GrimesやAllie X、Yaejiのアートポップの要素と、Kelly Lee OwensやEla Minusのシンセポップやチープなエレクトロニックの要素をミックスした音楽性で、これまでインディペンデントリリースしてきた作品は、SpotifyやApple Musicなど全世界で数百万以上の再生を積んできた。

KUOKOの創作活動で注目されるのは、音楽だけではない。映像の分野では、1994年生まれ中国・ベトナム移民2世で、ハンブルグを拠点に活動するとする映像作家であり映画監督のJasmin Luuが立ち上げた、フェミニストアート映像集団「SEOI」にメンバーとして参加している。「SEOI」は「Worlds Apart」などミュージックビデオの映像制作やプロデュースでコラボレーションを行っている。漫画やアニメの美学を取り入れたクリエイティブには、多種多様なメッセージが込められている。KUOKOは「音楽業界と同様に、映画業界も白人や男性が多いので、女性やノンバイナリー、有色人種で構成されているこのコレクティブは、特別で重要なものです。」と語る。


KUOKOはまさに根っからの“アーティスト”である。彼女にとって重要なことは、スターとして注目を浴びることではなく、何かを生み出し、クリエイティブであり続けることだという。「自分の音楽の中では私がボス」と語っている。クリエイティブや音楽的に多様な才能を発揮するKUOKOは、音楽を通して、様々な社会問題にも向き合っている。

ベトナムにルーツを持つ彼女は、アジア人女性としての実経験や葛藤をテーマにした「Yellow Fever Gaze」という曲を書いている。アジア人に対する人種差別や偏見、特にアジア人女性に対する性的な固定概念への疲弊を訴えたリリックが印象的だ。


曲毎に明確なメッセージ性を込めるKUOKO。シングル「Perfect Girl」では、これまでのミニマルなDIYなサウンドから一変、ダンサブルで浮遊感あるアップテンポなビートに、現代社会の女性に対して課せられる過剰な期待への不満や疑念を謳っている。「より良い幸せ、より可愛く、より大きな成功」を感じさせる商品に反応しがちな女性の価値観にも、世界共通の問題として警鐘を鳴らす。「あなたが求める完璧な女性には絶対にならないわ」という力強いメッセージこめた一曲だ。一人の女性がひたすら踊り続けるMVは、どこか神秘的な世界に迷い込んでしまったかのような不思議な感情に包み込まれる。


「Cybercreeping」は、デジタル時代における人間関係の疎外感や、感情の起伏をパズルのように組み立てる孤独で苦しい心境を表現している。ミニマルでスローなシンセベースのサウンドが、より孤独な世界観の儚さを強調している。

KUOKOは、音楽業界では、女性であること、そしてアジア人女性であることが原因で、過小評価されることへの恐怖を感じているという。アジア人女性に対するフェティッシュ化や、「アジア人女性」というカテゴリー分けを自然と行なっている世間の認識に対して、本当の自分を見てもらいたいという気持ちを常に音楽やアートで表現してきた。こうした感情は、人間誰もが共有できる普遍的なニーズだと語る。一方で彼女は、自分の作品や活動が社会問題や性別問題をテーマとする議論でしか取り上げられ無いことも危惧している。音楽性が社会のコンテクストに押しやられてしまうこと。芸術性と社会性のバランスを取ることの苦悩も感じている。何かにカテゴライズされることへの恐怖。そんな恐怖心から彼女はデビューアルバムにあえてタイトルを付けなかった。「自分はどのカテゴリーにも属したくない。あえて言うなら『KUOKO」というカテゴリー。だから、アルバムタイトルを『KUOKO』と呼んでいます。今の私には一番しっくりくるのです」と語る。KUOKOは、音楽性やサウンド、歌詞に込めたメッセージだけでなく、アート、デザイン、プロデュースまでDIYな創作活動全体を通じて、多様な社会問題の複雑さを示している。彼女のこれからの活動には、あらゆる視点から注目せざるを得ない。


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バイオグラフィー


KUOKO

ドイツ・ハンブルグで活動するベトナム系ドイツ人アーティスト、プロデューサー、ビジュアルアーティスト。2018年よりEP「Lost Woods」2020年にEP「Reality Check」、2021年にデビューアルバム『KUOKO』をKabul Fire Recordsよりリリース。コンセプチュアルなエレクトロニックサウンドを軸に、沈鬱な現代社会の差別問題、固定概念への苛立ち、憤り、葛藤に向き合い、希望を見出すシンセポップ、アートポップ、映像作品を展開する彼女には、SNSで共感するZ世代やミレニアル世代を中心に支持が集まっている。楽曲制作やプロデュースに加えて、映像制作や衣装デザインも自らが行う。女性やノンバイナリーなクリエイターで構成されるアート集団「SEOI」を共同設立し、これまでに様々なアーティストとのコラボレーションで活動の幅を拡張してきた。Spotifyのグローバルプレイリスト「EQUAL」のカバーに選出され、Apple Musicでは欧米に加えてアジア、中南米のプレイリストからもサポートされるなど、DIYアーティストとして活動拠点はドイツから世界へと広がりつつある。



作品情報



リリース日:2021年10月22日
レーベル:Kabul Fire Records



◆トラックリスト
1. Ocean Whisper
2. Hiding In The Dark
3. Perfect Girl
4. Worlds Apart
5. Floating
6. Making Friends Is Easy
7. Yellow Fever Gaze
8. Parallel
9. Stron Girls Don’t Cry
10. Cybercreeping 11. Stuff

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